スキャナー・ダークリー('06/アメリカ)

フィリップ・K・ディックの原作を実写で撮ったのちに2Dアニメ手法でトレースしたという変わった造り。人間と擬人、真実と偽証が入り混じるディックの作風を理解した表現法ではあるかもしれない。一ついえることは、キアヌ・リーブスは二次元でもかっこよすぎる。あとSFでおなじみの「常に老若男女の容貌がかわるがわる絶え間なく投影されて実体が分からない光学迷彩スーツ」の表現は、実際にみつめているとめまいがしてくるほどで秀逸。近未来の架空の麻薬が市民の二割にまで蔓延したカリフォルニアが舞台だが、ED前のモノローグ・クレジットによれば実際に麻薬によってディックは数え切れないほどの友人知人が廃人化するところを見ていたそうで。麻薬やそれによって暴利を挙げる組織への嫌悪というわけでもなく、中毒化しないといられない人間心理の混沌をただ淡々と描いたひそかなテーマ性には、鬼気迫るものすら感じられる。結末の付け方も含めて非常にディック的に仕上がっており面白い映画でした。