ラナーク 四巻からなる伝記

ラナーク―四巻からなる伝記

ラナーク―四巻からなる伝記

プロローグ、第一巻、第二巻、第三巻、第四巻、エピローグの配置を意図的にシャッフルした奇書小説。全体を通した内容そのものには特に斬新さはないが、自分の出自を知らずに奇妙な街をさすらう男ラナークの冒険における奇想ぶりと、生まれ持った特異な性質に生涯ふりまわされる少年ダンカン・ソーの内面と周囲との交流における写実ぶりには大部を読み通すに値する十分なものがある。
構成力とテーマ性については造りが似ているエンデの「はてしない物語」に及んでいないものの、自我を外殻的に鎧う竜皮症に罹りはてには自爆してしまったりする若者特有の奇病といったアイデアや、理想や空想に逃避しながらも現実生活では社会システムとの無益な衝突や心身症としての喘息やアトピーに悩まされる様を微に穿って描いている点が直截に同時代的で読む者の印象に強く焼きつく。…あと、同じくソーのように暗くうっとおしい子供だった自分にとって、周囲の大人や友人たちの誠実といっていい根気強い対応を表した描写にいたく感銘をうけた。これは作者自身のあたたかい性格の産物なのか、あるいは聖書という大きな物語がいずれの方向にせよ人々の精神にしっかり根を下ろしていた時代ゆえの現象なのか。