カポーティ('05/米)

実際にあった一家惨殺事件を元とした「冷血」を執筆していた頃のトルーマン・カポーティというモチーフで、“作家という人種”の自己中心的な欺瞞と切実な欲求とをあぶりだす。終始が抑制された演出で、殺人描写といったエグみをのぞけば画面もいたって静謐。特にカポーティが息抜きに彼氏(でいいんだよね?)とバカンスするスペインの風光明媚な別荘地が印象的。…しかしそこから戻らなければならない現実=アメリカ南部の因習に満ちた片田舎の微妙な寂れ具合とのコントラストがまた戸惑いを生み出すのだけど。いやあ、保安官の住み込み宿舎の中に留置所があるなんてな…奥さんは料理しながら監視もやらされるってことなのかなあ… 全然『Private』ゾーンじゃないよなあ。さて、作家もまた情緒不安定な者が比較的多い印象がたしかにあるけど、取材対象に向かう時に親愛と誠実だけではやはり良作はつくれない。とはいえ、自身が生育暦にコンプレックスを持って容疑者に弁護士を用意したりと中途半端に肩入れするカポーティが不誠実だとは、見ていてはっきりと言い切れない。ただ一ついえるのは、創作とは自分自身の二面性を鼻先につきつけられることが避け得ないことが度々あるということ。そしてそれは作家だけに限った話の選択ないしは自意識という問題でもないと思う。一人でじっくり視るに適した良い映画でした。あとカポーティの話し方はハタ皇子そっくりです。