TOKYO YEAR ZERO

TOKYO YEAR ZERO

TOKYO YEAR ZERO

日本在住の若いイギリス人作家が敗戦直後に起きた連続強姦殺人の通称「小平事件」を題材に、占領された『無抵抗都市』(と、ここで焼け跡市を舞台にした丸尾末広の漫画を思い出す)としての東京、引いては日本の復興の内実を描く試み。三部作の始め。非常にパラノイアチックな文体で特に色んな境界が一人称の中で溶解していく結部には軽く目眩を覚えた。出口のない現実をさまよう人間が見るのはまさしく地獄。全編が地獄巡りの世界で、ここに出てくる日本人たちにもはや誇りの欠片すら見出すのは困難。運良く生き残った誰もが後ろめたさをそれぞれ隠し持つ。…さて、日本人の儀礼性は欧米人から見ればたしかに不合理に思えるシーンも多々あるとは思えども、やはり主人公やその同僚刑事たちの共同体における振る舞いにはところどころ違和感を持つ。特におじぎのタイミングとか。洋画ではありがちだけどね。とはいえ、日本人自身では直視に堪えない戦後数年の混乱を、占領をもたらした側であり現在ももたらす側であり続けている白人作家が描写することで醸される異化効果、ほとんど悪文とすら言いたくなる朴訥な訳文にもそれが意識されていることは間違いないと思う。第二部の帝銀事件編、第三部の下山事件編も楽しみです。個人的には、まがりなりにも日本は立派に復興を果たしたって単純なオチはやめてほしいけど。ジョン・ダワーの有名なノンフィクション「敗北を抱きしめて」は結局のところ奇麗事すぎるタイトリングだと思うし。真に抱きしめることができるほどに純粋で実直な占領など、現実にあり得るというのだろうか?