疲れすぎて眠れぬ夜のために

疲れすぎて眠れぬ夜のために (角川文庫)

疲れすぎて眠れぬ夜のために (角川文庫)

そうか、やっと分かってきた。内田樹(ちなみに「いつき」ではなく「たつる」と読む。素敵なお名前ですよね)の本領は、リベラルな思考法とカジュアルな語り口により自分の恵まれた素性を基底とした保守論を語る、だ。恵まれない現代日本人である自分としては好きになれない提案を出してくる人だけど、出しかたの作法自体は嫌いになれない、これは珍しいパターンだ…。さて、この一冊の大きな特徴は語りおろしスタイルで作られているということ。作者後記でも述べられているけど、それでも読んでいてさほど違和感も混乱もないのは編集者の仕事ふくめて校正がしっかりしてるためでしょう。テーマ的には、家族が集う居間は実はプライベートゾーンではなくパブリックスペースとして成立させるべきといったあたりと、女性比率が極端に低かった開拓時代の事情から俯瞰して推察した現代アメリカで女性が生きることの特異な困難さのくだり等が面白かった。それにしてもやはり東大出の物書きからはしっかりと体系化された教養の堅固さが感じられますね。けれどほとんどまったく威圧感がないのが内田氏の凄み。本文中でも語られているように、“正しく利己的”に理想に近い社会をめざす戦略家の顔こそがこの人の本質では。