悪魔の薔薇

悪魔の薔薇 (奇想コレクション)

悪魔の薔薇 (奇想コレクション)

これ表題作がすごい理不尽なの。もうこういう非道いオチを見せられたら腹が立つというよりただもの悲しい。そういう意味で私の中でこの「悪魔の薔薇」はウィリスの『わが愛しき娘たちよ』やデイヴィッドスンの『さあ、みんなで眠ろう』と並んだ。でも、現実の味気なくも惨い仕打ちに身につまされつつもそれでも中世的な雰囲気のけぶるような耽美さが舌の奥に残る、そういうロマンティックな殻をかぶった強靭にしてニヒルともいえるスタイル。これこそがタニス・リーの本領なんですね。今まで印象が強かった某文庫での少女漫画風味表紙画の装丁で正直甘く見てた。久しぶりに外れがまったくない強力なラインナップの奇想コレクションが出たなという感じ。めずらしくハッピーエンドなおとぎ話「愚者、悪者、やさしい賢者」、東洋的な無常観が余韻を長く引く「青い壺の幽霊」、吟遊詩人が唄うバラッドのように甘く始まり哀しく終わる「魔女のふたりの恋人」など実にバラエティに富んでもいます。