竜を駆る種族

竜を駆る種族 (ハヤカワ文庫SF)

竜を駆る種族 (ハヤカワ文庫SF)

うーん、ジャック・ヴァンス面白い。痺れる。流麗な文体で異文化交流を淡々とスタイリッシュなまでにガジェットとして浮かびあがらせ、その実本質的にはわりとマッチョ。渋いよね。この中篇小説も、銀河にちらばった人類の末裔が爬虫類異星人の襲来を受けて、その結果お互い同士、捕虜を戦闘奴隷として品種改良(人類側の開発した竜たちの活躍の爽快感が、後半に登場する亜人類戦闘人種のグロテスクさに見事に相殺される、その手際の鮮やかさといったら)し、そして血を血で洗う決戦の日がふたたびやってきた…という筋のあまりの殺伐さにぐったりするものの、やたらに情動を煽ったりしない抑制のある筆致とあまりにも魅惑的な設定細部がモラルの枠を読者の意識上からとっぱらってしまう。そして内省的な部分もあるかと思われていた主人公の領主ジョアズの熱く堅い交戦意志と自由への飽くなき希求、そしてつきつめれば自己欺瞞でしかなかった精神受動モードを選び取った派生人種たちへの哀れみ。相当にハードボイルドな作家だと思う。女性キャラが極少なのもしかり。