棄ててきた女

ミステリとしてきっちり読める作品が後半に集まっているのは意図的なものかしら。前半は一般小説としては味わいはあるのかもしれないが、しかしオチの切れ味が微妙なものが多かった印象。表題作はその点、余韻がすばらしかった。紙数の少なさにまた痺れる。ミュリエル・スパークの作品はたぶん読んだことはなかったが、まるで化粧の濃い婆さんが香りの強いタバコの煙を遠慮なく吹きかけてくるかのような読後感。もっと他の短編を読んでみたい。他はタイムパラドクス要素の入った『時間の縫い目』(ジョン・ウィンダム)、『詩神』(アントニイ・バージェス)も良かった。簡潔な文体と構成が英国小説らしさなのかも。巻末を飾る『パラダイス・ビーチ』(リチャード・カウパー)はSFガジェットを用いたサスペンス小説。さばさばした女性同士の友情が印象に残った。