有情・余情・風情の旅へ

2006年に(株)浩気社の発行、非売品のアンソロジーで北陸三県を題材にした小説家、エッセイストの小品で構成されている。テンションが総じてなだらかな印象が、実に富山・石川・福井の持つ雰囲気と合致していて心地いい。内容が特に記憶に残るのは、宮脇俊三の「神岡線富山港線氷見線越美北線(抄)」で、マニアの外からは理解されにくい時刻表へのこだわりからくるサスペンス、駅員や乗客との心理の温度差からくるうしろめたさの滲み具合がいい味。山口瞳の「湯涌白雲楼のヤマボウシ」での終わりの方の一節で、繊細優美な京都とは似ていながら本質がことなる金沢文化を『金沢は、やっぱり能登だとしか言いようがない。それ以外に言えない』と指摘した鋭さには雷に打たれたようだった。