愛の渇き

愛の渇き

愛の渇き

これまでに読んだカヴァン小説の中ではもっともキャリアの早い時期に位置する長編で、亀裂がはじめから入った母と娘の関係が他人を巻き込んで綾なす複雑な模様というストーリーは、通俗小説のそれといって過言でない。物語の中盤に置かれた、寒村と都会を結ぶ列車を挟んでの若い男女の言葉のやりとりなどは、読んでいてその成り行きにハラハラさせられるほど。しかしカヴァンの筆致の特徴は折々に顔をのぞかせ、寒い部屋で陽光が斜めに差し込んで室内をきらめかせる瞬間の無感情だからこそ美しい描写、運命の因果応報を示しながら更なる心裡の襞を折り重ねることで単純な解釈をつきはなす読者との距離感などは、代表作である幻想小説『氷』と相通ずるものがある。