黄金の少年、エメラルドの少女

黄金の少年、エメラルドの少女

黄金の少年、エメラルドの少女

冒頭に置かれた中篇「優しさ」の一本の映画をみるような深みのある味わいから〆を取る表題作の手法披露のこれ見よがしさのない完璧な落ち着きぶり。個々の完成度と同じほどに構成がすぐれた短編集だった。中国で生まれアメリカで暮らす作者の、ローカルに描写しながらも視点はグローバルに置かれている(こんな大枠の批評は彼女の文体のさりげなさには合わないけれども)作風のなんと伸びやかなことか。運命に翻弄される人々の悲哀がテーマながらも、ユーモアと風通しの良さも感じられるのはそのために思う。不幸の概要はおおむねパターンが決まっている。しかしそこから生まれる精神の波紋は同じものが一つとしてない。作者が見続けているのはそんな人間の不可思議さから生まれる可能性の奥行きなのだと思う。