メランコリア('11/監督:ラース・フォン・トリアー)

二部構成だが、本編よりも印象が強烈な8分にも及ぶ序章こそが最大の見所かもしれない。エピソードからカットされたシーンが、個人の記憶、さらにいえば死ぬ間際に流れるという生涯の走馬灯のようにミステリアスなスロー撮影であらかじめ提示される。それはまるで次元の歪みを示すようであり、敷衍すれば精神疾患の創造的な一面を切り取っているようでもある。それにしても近年あまり劇場に足を運んでないせいか、久しぶりに突飛な幕の閉じ方の映画を観たなあという気持ち。いや、そこまでの布石はちゃんと踏まれて物語は展開していたが、ふつうは超常的な描写をそのまんまでは皿に載せて出してこないだろうという意味で。憂鬱気質を持った妹が世話を焼かれながらも心の底までは理解されない姉と、一種の和解を遂げるというプロットとも観られる(その仲介人というか立会人のようにそばにいる姉の息子の無垢さがとても可愛い。)が、監督が真に示そうとしたのは視界さえ薄青く変えることのある『うつ病』という人生の落とし穴の、普遍ぶりの方なのかもしれない。第一部の結婚式の描写の冗長ささえもう少しなんとかなれば、完璧に美しいともいえたかもしれない作品。