表題作にしろ「思想家たちの人生」にしろ、小説家によっては“正答”をあえて明確には提示してこないだろう。しかしブロックマイヤーの真摯さ(彼個人が持つ誠実な性格は幻想要素のないほかの短編から時にナイーブすぎるのではないかと思うほど伝わってくる)はそれを良しとはしない。結果として表題作のハイミス女性の暮らしはある読者にとっては耐えづらいほどに寂しい-それが平穏なだけに-し、「思想家たちの人生」で描かれた思想家たちの終わりの無い絶望もまた同様だ。それでいてポップ手法からくるクールさもたっぷり持ち合わせているのもブロックマイヤーの特徴で、
ゲームブックの体裁を取りながらも実際には真逆のパフォーマンスを見せる「“
アドベンチャーゲームブック”
ルーブ・ゴールドバーグ・マシンである人間の魂」にしろ、
スター・トレックシリーズや文豪
チェーホフのパロディを行いつつやはり終わりなき日常に個人がぶちあたる壁を最終的に現す「トリブルを連れた奥さん」(完成度の高さではこれを推す)にしろ、可笑しさと哀しみを背面合わせにしたテクニカルさには天性のものを感じる。