TOKYO 0円ハウス 0円生活

TOKYO 0円ハウス0円生活

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早稲田大学建築学科に在籍中だった頃から、既存の家屋設計や都市計画の非柔軟性に疑問を持っていた著者が、卒業制作のためのフィールドワークの延長として多摩川の河岸をさかのぼりながら聞き取りを始めたのがこの本の成り立ち。最初の章は、墨田区で自作した小家屋にパートナーと住む「鈴木さん」との出会いとやり取り。日々の暮らしの詳細や定期的に行われる国交省の見回りのための簡易ハウスの解体と再建築などのレポの後、章構成は時間軸をさかのぼって著者の小学生からすでにあった建築への興味のあらましや、東京以外の都市における手作り自然発生家屋との比較などに割かれるのだが、その組立が非常になめらかで読みやすかった。なお、全体の本筋からは傍流の箇所になるが小学校時代にファンシーグッズやアナログRPGを自作してクラスの男女に好評を博したという思い出話が特に面白い。最近読み聞きした中でも、とびきり個性的かつ想像的な人々がさらりと紹介されている好著の紡ぎ手さもありなんと納得させられる。それにしてもこの本が示唆する軽やかな住居の提言は、これから続くと思われる経済低成長/気候異常時代にはダイレクトに有効だ。ハウツーのさわりとしても使える知恵が複数ちりばめられている。