戦う司書と追想の魔女

シリーズ最大の紙幅とあとがきで述べられているだけあって、現在時点と過去との行きつ戻りつと、更に複数の視点人物の交差とがかなり複雑な気がするが、読後感はいつも通りいたってシンプルだ。テーマの掲げ方はライトノベルの枠を超えているのに、描き方自体はライトノベルの制約を守っている。作者は律儀な人だ。
今回のヒロインである悪党美女オリビアの自己中心性は神溺教団の幹部『真人』たちにも匹敵するが、しかし彼女の魂が真に欲したのはただ一人の他者への衷心だった。心に他者が在るかどうか。善を世界に為す悪人と悪で世界を狭くする悪人との差異はそこにあるというヒントが描かれる愛であった。そして媒介となるべき善人(この巻では新米武装司書ヴォルケン)もまた、発動性にはやや劣るものの不可欠な要素であるとも提示されるあたりはこれまた律儀だ。