ミス・ポター('06 米・英/監督:クリス・ヌーナン)

ピーターラビットの作者ビアトリクス・ポターの半生をコンパクトに描いた佳作。人生に波風は立つものの、タッチはおしなべて滑らかで上品に仕上がっていた。ただ、史実からの翻案も複数あるようで、その点は鑑賞後に留意しておいた方が良さそう。あらゆる伝記要素の入った作品に言えることだけど。…この映画の場合は、ポター自身よりも20世紀初頭のロンドンの雰囲気や湖水地方の空気感(なお、両所を主人公が行き来する際には汽車が橋梁を渡るという典雅な遠景クリシェが用いられる)、女性が自ら選択して生きていこうとする時の戸惑いや困難といった別の軸足があるようにも思うわけだし。常時、屋内や屋外関わらず光の演出に目配りおこたらず、時にアニメーションを合成してポターの内面世界への共感を呼ぶ工夫もさりげなかった。愛らしく、しみじみする視聴後感。昔の人はあまり社会階層に関わらずはかない生涯だったんだなあとも。