ベガーズ・イン・スペイン

ベガーズ・イン・スペイン (ハヤカワ文庫SF)

ベガーズ・イン・スペイン (ハヤカワ文庫SF)

アメリカで各賞を数多く受けているナンシー・クレスの日本オリジナル短編集。全編とても面白く読めたのは、現在活躍中の欧米SF作家の中で、久しぶりに文系で攻めてきているタイプに出会えたからだと思う。なお本国での作品集ではジーン・ウルフが文を寄せているというから推して知るべし。バイオ技術の進んだ近未来が舞台というパターンが主だが、主題は科学技術よりも人間関係あるいは社会状況の方で、たとえば表題作(クライマックスでの姉妹の一筋縄ではいかない相互理解の描かれ方は手法の成功もあって非常に感動できる)におけるヒロインの世知のなさからくる周囲の反応の苛立ちや戸惑いは、現実社会における発達障害者の様子の引き写しのようでもあり教育現場にいたという作者の表現性の芯をみるような気がした。個人も社会もどちらを責めるでもないという一見あやふやな主張感の現代性も同じく。