ブロデックの報告書

ブロデックの報告書

ブロデックの報告書

第二次世界大戦直後のとある田舎村で起こった異邦人殺害事件に否応無く関わった男の苦悩を一人称であぶりだす。記憶が詳細に語られるとともに序々に増していく寓話性という手法が巧みで、まるで灰色の霧の世界に少しずつ着色が施されていく趣き。それにしても今回も読後感にズシンときた。クローデル小説でとりあげられる歴史的モチーフそのものには特別な脚色は薄いものの、それに見舞われた市井の人々への糾弾と共感が相まった心理描写の掘り下げ方が実に容赦ない。しかしそれこそが、それだけが歴史で起こった悲劇の無意味さに耐えるための処方箋なのかもしれない。すべての人間はおそらくだれかをころす存在であり、そしてすべての創作物はだれかへの、何者かへの“報告書”である。たとえ読まれることがないとしても。