メタボラ

メタボラ

メタボラ

沖縄本島が舞台。記憶喪失の青年が偽りの経歴を土台に日常という名の混沌に入っていくが、徐々に喚起された記憶により再び自己基盤が崩壊。思い出した過去の重みに耐えつつ、最終的に彼が下した決断とは… というのがあらすじ。近年の桐野小説らしく乾いたユーモアはあるものの、現実の日本の底部を映しとった描写部分は代表作「OUT」の弁当工場のそれ以上に生々しく、ゆえに、主人公が陥った白昼夢のような現実感のなさに同調してしまう。ところで主人公が終盤につぶやく台詞「分かったよ、父さん」の意味については思わず考え込む。結局、父と同じく自らに対して破滅的な決断を下すその瞬間にようやく再び家族としての共感を取り戻せたという事かなと納得。しかも主人公は父とは逆に愛する者を守ろうとした結果の行動なわけで、その意味においても主人公本人にとってはハッピーエンドなんだろうと思う。桐野夏生は厳しいと同時に温かい作家。(追記:よくよく考えると父もまた愛する者への気持ちゆえに最終的な決断に到ったと表現されていたように。やはり似た者親子である事を確認できてようやく主人公は自分自身に戻れたわけで『ゲド戦記』第一巻と構造が似ていると強引に言えるかも)