夕凪の街 桜の国

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

ヒロシマをテーマとした中篇二編(『夕凪の街』は終戦間もない広島市に住む就労未婚女性、『桜の国』は現代東京の若いOLがそれぞれ主人公)からなる。話題から大きく遅れて読んだ。思っていたよりずっと薄い本で、商業単行本というより創作系同人誌の趣に近く、素朴な印象が引き立っている。一番ショックなのは、清純派ナースがラブホテルに慣れているくだり…というのは冗談だけど、童顔に男女問わず華奢でやわらかい肉体というかわいらしい画風が日本人一般のデフォルメを感じさせるだけに、日常にごろりと転がる生々しさがかえってリアルな肌触りを持っているのが面白い。涙を流すシーンがおそらくほぼ無いのも、沈殿し生活に馴染みきった諦念に近い悲しみの表現として秀逸。死そのものは受け入れられても、背後にある理不尽さは永遠に残る。残すべき。