乱鴉の饗宴(氷と炎の歌 4)上・下巻

貪欲バイタリティの権化のようなラニスター家の天下も内輪もめにより陰りが見えたことで、一旦は収まりかけていたかのようにみえた諸国同士の争いに再び火が付いていく状況の遷移を、戦乱の反動としての原理主義的宗教の勃興を新たなメインモチーフとして絡めて語った章。力なき民衆(旅籠主人二代の悲運について『庶民に生まれる事自体が大変なのですよ』と淡々と述べるセリフが印象的。今巻におけるサー・アリスのように騎士道に煩悶した一つの結果として死んだりするような昇華の舞台すら与えられずに戦に巻き込まれる方はたしかに憤懣やるかたない)も時には集団となって権力者の足下をすくいますよという歴史性要素を描写するためのアイデアである『雀』は、前巻までのゲリラ対抗勢力であった逆徒べリック党に変わってより存在の必然を感じさせられる。下巻最終ページ近くで、サーセイが司祭館で垣間見る思わぬ光景からの流れるような攻勢の反転は、やはり一種胸がすく。ところで今回から訳者が変わったけど、ダイナミックな娯楽性のあるこの作品においては新訳者の方がより合っていると思う。固有名詞変更もすぐ慣れることができたのは、マーティンの尋常ならざるキャラクター彫塑力の賜物だと思うけど。しかし今回の引きの強さはこれまでで最強かも。ブリエンヌおっとブライエニーの発した言葉ってなんだろ。『サンサ』? あと新キャラ“スフィンクス”が気になる。アリアンの弟のクエンティンの仮の姿とかだったりしないかな。