新リア王(上・下)

新リア王 上

新リア王 上

高村薫は「レディ・ジョーカー」を読んだだけだが、その時よりは取材量の膨大さに圧倒されずに心情ドラマ面を楽しめた。ここにあるのは世代の怨念の物語(本歌であるシェイクスピアを読んでないのではばかる予想だけど、父と子の一人称語りをそれぞれ交互に配置するのもオマージュかと)であり、地方政治の泥をはいずるかのような出口のなさというのは飽くまでサブテーマに過ぎない。その点が以前の高村作品にあった生硬さから一歩踏み出しているような… ああ、でも本作の前奏であるらしい「晴子情歌」も未読なんですけどね。さてそれにしても結部の寒々しさは尋常ないな。序盤で描写された本会議初日の国会議事堂ロビーのわずらわしいながらもどこか混じりけのない昂奮のある空気や、イレギュラーながらも家庭のだんらんを夢見た男が紡ぐ生活のいじらしさを断片として語った中盤と、すべてが対照しながらも表裏一体の様相を為す。