世界の肌ざわり -新しいアメリカの短編

柴田元幸、斉藤英治 編・訳/白水社刊。やまなしおちなしいみなしな作品が多いあたりが柴田元幸のアンソロジーセンスらしい。しかし不思議と読後の質感にそれぞれ似通ったものがあり、それを一言で説明するとしたらまさしく書題となるだろう。平凡な人生にも風変わりな人生にも注目すべき点がないケースなどないと。個人的ベストは近所の湿地帯で虐げられた女たちに囲まれてわびしくも牧歌的にハーレム暮らしをする老父に、そのぼんくら息子とあやふや自転車乗りが挑む「見張り」(リック・バス)。現実にいたらまずまちがいなく係わりになりたくないと思わされる種類の人々も、文学化されればあら不思議… 世界を映す目は常に複眼でありたいものです。あとはポール・オースターの妻としても知られるシリ・ハストヴェットの「フーディー二」の統合失調症の老婆と心身症をこじらせつつある女子大生との病室でのやりとりがやけにリアルで印象に残った。amazon:世界の肌ざわり