聞書 遊廓成駒屋 −不思議な場所のフォークロア

戦後の風俗営業法改正により、通称ソープランドへと業態を変えることを余儀なくされ、それによりじわじわと衰退していった遊郭。その一つの例を跡地でのフィールドワーク(残された茶碗や備品などを調査の緒端とする)や当時の関係者への聞き取りによって、往年の様子を浮かび上がらせる試み。営業を続けて利益を上げるために女性達をときにはあえて熱を出させてまで、検査を切り抜けさせていたという経営関係者の非人道ぶり、かつて実際に遊郭で働いたのちにそれぞれの道を歩んでいる女性たちの姿の生々しい描写には、作者の"やたらと安易に現在の倫理感覚をもちださない"というしばりとは裏腹に、貧困と社会福利未整備へと思考をめぐらされる。

七王国の騎士

氷と炎の歌」の外伝として、本伝から100年さかのぼった時代を舞台とした連作中編が3本収録されている。"騎士道"の伝統性と欺瞞性とを並行して描写し、登場人物たちの心理を簡明に綴りながらもおのおのの背後に綾なす余韻をも浮き彫りにするマーティンの筆力は、淡々とした構成だけにいっそう圧倒される。こんな作家と同時代に生きることは、僥倖以外の何物でもない。…古臭い"騎士"の道を朴訥に追う主人公のダンクと、対になるかのように魔術師としての色相が濃い策謀家のブラッド・レイヴン(血班烏)の影が、回を追うごとに大きくなる構図は示唆的。

死の鳥

容赦も救済もない悲惨な結末が多いのに、なぜか寒々とした気持ちにはならない。ドライな語り口なのに読後感はウェットともいえて、SFファン界でなぜエリスンがよく慕われていたのか分かるような気がした。