ファウスト('11/ロシア 監督:アレクサンドル・ソクーロフ)

ゲーテの原作から自由にイメージを膨らませた幻想譚という趣。この監督の作品はどこかふわふわしているというか、シリアスなストーリーでも何か空気が軽い。別にけなしているわけではないのだが、そのあたりをどう観賞すればいいのか、自分はいまだに分からない(といっても今まで観てきたのは「エルミタージュ幻想」と「太陽」だけなのだが。前者の方が名所紹介コンテンツとしてより楽しめたと白状するのは正直すこし恥ずかしい)。…というわけで途中でうつらうつらしてしまいつつ、映像的に純粋に印象が強いシーンだけ楽しむというていたらく(原作を読んでないので引き比べることも出来なかったこともあり)。が、まだあどけないうら若きヒロインに強く光があたる場面-公式サイトのメインビジュアルにもなっている-、彼女が驚いて壜を割ってしまうホムンクルスの生々しい動かし方など、そこそこ楽しめたとも言えないのではないかな〜 っと… 最後のシチュエーションは「ドン・キホーテ」を想起して、まるで途中で物語がすり替わったかのようでなんだか面白かった。

ねじまき少女(上・下)

ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF)

ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF)

石油が枯渇した未来、代替エネルギーとなったのは穀物、そして遺伝子改造生物たちを使役しての『ねじまき』動力だった。舞台は独立性を保って遺伝子汚染から逃れようとする政策をとるタイ王国。日本生まれの人造美少女・エミコは過酷な環境で息をひそめるように生きており、彼女が得たひとつの出会いとそこから生まれた自由への小さな渇望は、やがて大きな火花となり状況は雪崩をうって変化していく。
湿度の高い空気に息を圧されるように錯覚しつつも一気に読み上げた。大胆なSF設定を持ちつつも、ジャンル・ハードな作品では決してなく、むしろテーマとしては一般小説の方に近いのではないかとも思える。終わり方はあっけないと捉える向きもあろうかと思ったが、善悪を超えた一つのダイナミズムを予感させ、全体モチーフの一つにもなっている東洋趣味の昇華ですらある落としどころに、今はしごく納得している。

ポール・デルヴォーの絵の中の物語

ポール・デルヴォーの絵の中の物語

ポール・デルヴォーの絵の中の物語

デルヴォーの20枚ほどの絵に、自由連想といった感じの掌編が付いている。これは…非常に効く睡眠導入剤だった。このジャンルに関しては、フランス人の文章に勝るものはないなあ(笑) 一つ思ったのは、大きめにカラー図版を載せてそれを中心にレイアウトも凝ったもっと豪華な装丁なら手許に置きたいなあという事。