ねじまき少女(上・下)

ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF)

ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF)

石油が枯渇した未来、代替エネルギーとなったのは穀物、そして遺伝子改造生物たちを使役しての『ねじまき』動力だった。舞台は独立性を保って遺伝子汚染から逃れようとする政策をとるタイ王国。日本生まれの人造美少女・エミコは過酷な環境で息をひそめるように生きており、彼女が得たひとつの出会いとそこから生まれた自由への小さな渇望は、やがて大きな火花となり状況は雪崩をうって変化していく。
湿度の高い空気に息を圧されるように錯覚しつつも一気に読み上げた。大胆なSF設定を持ちつつも、ジャンル・ハードな作品では決してなく、むしろテーマとしては一般小説の方に近いのではないかとも思える。終わり方はあっけないと捉える向きもあろうかと思ったが、善悪を超えた一つのダイナミズムを予感させ、全体モチーフの一つにもなっている東洋趣味の昇華ですらある落としどころに、今はしごく納得している。