横道世之介('13/監督:沖田修一)

80年代半ばに大学時代を送った横道世之介とその仲間たち。彼らの不器用な青春と、それから十数年後のそれぞれの生活とが、交互に描かれることでノスタルジーとそれを超えたなにかが呼び覚まされる。世之介の生涯の結末については、物語中盤に淡々とかつ唐突に示される。そこから観客の意識は、世之介の青春の絶頂期にして人生のキャリアが始まった時代が、すでに存在しない事実へと移っていくこととなる。しかし、恋人だった祥子の目には、新宿の交差点でかつて手を取り合って歩いていたふたりの姿が映り、それぞれの生業を持って暮らす友人たちの脳裏にも鮮やかに世之介のほのぼのと笑えるエピソードが再生される。人生の時間は過ぎていくが、それぞれの心の中に終わりも始まりも実はない。そんな切なくて暖かなものを、この映画は残してくれる。2010年代の今よりもぼやけて灰色がかった空気を通してみる空や海、どこか垢抜けないファッションを最大限に再現したその細やかな技術と配慮、演出に演技とで。地味ながら非常に完成度が高い作品。