献灯使

献灯使

献灯使

大きな災厄があった近未来の日本。意図せずして不死となった世代の祖父と、ガラス細工のようにもろくこわれやすい身体で生まれてきたひ孫との穏やかな生活の中で、自然から切り離されて終わりが見えないまま続く時間と、理不尽なまでに割を食わされた形ながらそれを当然と受け止める精神とが、平行しつつ時に交差する。それは終わりのはじまりであり、同時に始まりのおわりでもあった。生命の形は、ふくらみ、そのあとにしぼみ、歪みながらも触手を伸ばすことをやめない。親の代の意図とは関係なく、広がり、繋がっていく。不安に満ちる空気の中で、希望の風穴を手探りで探す小説と読んだ。視界がうす暗くかすんでいても、どこかから常に新鮮な流れが鼻で感じられる。それが、人間が最後に与えられた『希望』という名の楽天性だと思う。