HHhH

HHhH (プラハ、1942年) (海外文学セレクション)

HHhH (プラハ、1942年) (海外文学セレクション)

ヒムラーの頭脳はハイドリヒと呼ばれる』というドイツ語の、文節それぞれの頭文字を拾うと本書のタイトルとなる。『ユダヤ人問題の最終的解決計画』と題されたナチスによる虐殺プランの実質的な立役者となり、その冷酷な性格から「金髪の野獣」と呼ばれたラインハルト・ハイドリヒ。その暗殺作戦の実行犯となったチェコスロバキア人青年たちの、任命前から遂行後までを取材しながら現地を歩く事によって、故人の精神を憑依させるかのような独自のスタイルで綴るセミ・ドキュメンタリー小説。ナチスの侵略をとどめるための嚆矢となるべく指名された若き軍人たちの思いの揺れを想像する作者の、ついに彼らと魂が重なったと実感に似た気持ちに到達した瞬間、読んでいるこちらもまた同時にそこに心を重ねる。その時、冗漫さもある文体の瑕疵もすっと薄らぎ、ほかにはない読書体験が浮かびあがるのだった。