ある精肉店のはなし('13/監督:纐纈あや)

関西のとある街で数代にわたって引き継がれてきた精肉店。かつては牛も飼っており、飼育から屠畜、精肉に販売まで家族経営で行っていたが、時代の流れに沿って、生きた牛を扱う業務を店じまいする決断をした。一家の、最後の肉牛解体までの数ヶ月を追ったドキュメンタリー。まるで同居生活を送りながら撮ったような、和気藹々としたホームビデオに似た肌触りが印象に残る。眉間をハンマーで一撃ちして牛を横倒しにする直前、一家の主は牛に『大丈夫、大丈夫』と語りかけて落ち着かせようとする。それは、(今からお前を食べるために殺すけれど、最後まで生き物として扱うから)という意味に自分には感じられた。そしてそれ以前のカットにあった言葉『肉を買う人は、育てた牛をバラして食べるなんてすごいねと言うけど、わしらからしたら、何も知らないで美味しいねって言って食べてるあんたらの方がすごい』へと想像の射程は至る。部落差別運動への想いをさらりと語ると同時に、地域の祭りを一年の特別な楽しみとして自然に楽しむ一家の様子を、カメラは水平に追っており、人が生きるという内容の一編の詩をよんだような気持ちになる映画。