はじまりのみち('13/監督:原 恵一)

モブキャストであるかのように風に静かにそよぐ道傍の草、青い空にふちを光らせながら流れる雲、男優を後ろから撮った際の折り目正しい心が現れたかのような耳からうなじにかけての線、病身の母の顔に付いた泥はねをこのうえなく優しい手つきで拭う息子の仕草。あまりにもシンプルすぎるシナリオだからこそより引き立つ美しいカットの数々が、残響として長く尾を引く。まるで、映画という手わざへの愛をそのまま作品の細部に投影したかのように。太平洋戦争中に戦意高揚映画を撮れという方針に反発して一端は辞表を出した木下恵介監督とその母に焦点をあてた内容から視点を離したとしても、今ここでこそ撮られるべき作品としての"決意"が静かに感じられた。