タタール人の砂漠

山間にある人界と隔絶された砦に配置された若き将校ドローゴ。彼の20代から50代に至る心の変遷を追うことで人生一般への俯瞰を象る静かな試み。起きそうで起きない異教徒との戦いへの不安と期待とが、いつしか心の支えとなってゆく無為さへの諦念。過ぎ去る速度が年々増す体感時間の感覚を再現することでおぼろげに色が着いていく焦燥。そして最期にドローゴの精神に訪れる境地の矮小にしてそれだけでは説明できないかすかな…