呪いの時代

呪いの時代

呪いの時代

道を歩けば、人々がお互いに投げつける呪詛のつぶやきが耳に届かない時はない。ネット上の書き込みではさらに明け透けな様態。資本が巡り膨張することで人間みんなが仲良く幸せになれると信じられた時代はすでに終わってしまった。これは、そんな停滞し閉塞した世情を言葉のメスで切り開いてみせる試み。此処に到るまでの道の欺瞞を省みる思索を梃子として、萌芽を見せつつある新たな繋がり方へと追い風を送る書である。著者の語り口はときにステロタイプな説教臭さへと接近するが、そういう場合に硬直性を除去する役割を果たしているのが、文芸審美眼を発揮したセンテンスの"ここぞ"というときの研ぎ澄まされた美しさであり、発表した全ての言説は自分の知力と感性に拠っていると認める胆力。武道の身体作法を紙上で再現できると証明した意味でも存在感のあるエッセイ集だった。