孤独な散歩者の夢想

孤独な散歩者の夢想 (光文社古典新訳文庫)

孤独な散歩者の夢想 (光文社古典新訳文庫)

「社会契約論」などの著作でフランス革命の土台を築いたひとりと目されるルソ−が、まさか晩年には被害妄想に陥っていたとは! 知人から送られるちょっとした一文にも自分を公的組織から追放したフランス教会との関わりを牽強付会したりする神経質さは、逆の面では植物採集に無心に熱中する衰えない感性の豊かさを示していて"才能"というものの日常における難儀さをあらためて知らされる思いで痛々しい。ルソーの死により途絶した最終章が、初恋の相手であるかつての家庭教師への思慕を前章からの繋がりなく綴っている内容だというのも何ともいえない読後感を誘う。それでも、自然が動きをみせる状景や人々が生活する情景を描き出す筆致はあくまで瑞々しい。ルソーは書き続けることで狂気の世界から自らを救っていたのだなと、闘いの記録をみる気持ちにも一面ではなるのだ。