シップブレイカー

シップブレイカー (ハヤカワ文庫SF)

シップブレイカー (ハヤカワ文庫SF)

ヤングアダルト向けの冒険小説というラベリングらしいが、人の死に様はなかなかに凄まじいし、基本的に"他人は信じられない"という世界観が採られている。しかし"絶体絶命に遭ったり大怪我したけどたまたま死ななかった"割合の多さに関しては確かに作者の一般向け作品とは趣きが異なる。作中で、人物に対して『ラッキー』という冠称がひんぱんに用いられるが、自分は多少、(努力に見合った程度の)幸運に恵まれるに違いないと信じられる精神の在り様こそが、若さの特権であり意義であるという作者の意思表明なのだろうと思う。そのあたりの割り切りが、バチガルピは作家としては若手なのにスパッと出来てて頼もしい。
都市がいくつも水没して、いまなお定期的に超弩級のハリケーンが襲来する渚のスラムで育った少年ネイラー(釘よりマシという意味で父が付けた名前)が、軽作業員として危険な廃船解体に従事する中で、偶然に見つけた座礁船で金持ち娘のニタと出会う。そこから陸に水にと冒険の舞台が広がっていくが、同じぐらいにスリリングなのが危険な相手との心理かけひきなあたりは、これもバチガルピらしい箇所に感じた。波の上をすべるように走るカーボン製の高速艇「クリッパー船」が作品の爽やかなイメージになっているが、読み心地も非常に滑らかで痛快だった。若いキャラクターたちのその後の物語もいつか読めたらいいなと思う。