100,000年後の安全 ('00 デンマーク、フィンランド、スウェーデン、イタリア/監督:マイケル・マドセン)

(NHKBSでの視聴。配給会社による公式サイトでは上映時間79分となっているが、テレビ放映版は20分ほど短かったような気がする。カットシーンがいくつもあったのだろうか?)コンセプチュアル・アーティストという肩書きをあわせもつ監督の美的センスが全体を統一しており、短めの作品ながらスクリーンで観ても十分に映えるだろうと想像された。インタビュイーの背景としてのホテル内装同様に、放射性廃棄物貯蔵施設オンカロ(隠し場所という意味のフィンランド語)の洞窟遺跡のような暗がりの質感、原子力発電所で遠隔操作で動かされる機器とゆらめく冷却水プールとのギャップがシュールさを産む近未来SFのような不気味な美しさ、それらは北欧的デザインセンスとして巷で憧れの対象となっている洗練された世界と通ずるものが確かにある。そして、10万年でようやく危険がなくなるという目に見えない"猛毒"を真剣に封鎖して管理しようと試みるフィンランド原子力行政の関係者たちの姿勢もまた、予想外にスマートに落ち着いていた。間に氷河期が訪れることさえも考慮するという、まさにSF小説のプロットを練るようなスパンを持つプロジェクトを、彼らは出来うる限りの冷静さと、そして情報公開の透明さへの配慮を持って進めている。日本の同業種人たちとのあまりの姿勢の違いに、脱原発派である自分も思わず「この人たちの言うことなら信頼しても良いかも」と思わされる。なにより、実際に原子力発電所から出る廃棄物は世界中ですでに20万トンを超えて存在しているのだから。プロジェクト責任者の一人はカメラに向かって言う。『放射性廃棄物の問題は、不確実性なケースなのです』。それでも、廃棄物は日々ふえていき、置き場所は地中以外には考えられないのが現状。それならば、ひとつの都市ほどに巨大な面積を持つ危険な"毒地帯"を、封鎖した後に永久に開放しないためにはいかに手を打てばいいか。その状況の奇妙さと、真摯な思考ぶりとを同時に考えさせられる映像作品だった。しみじみと、現実とは解答のない映画だと思う。しんどい。