裏切りのサーカス('11 仏・英・独 /監督:トーマス・アルフレッドソン)

正直いって、主人公の元・英国諜報員が探る謎の推移に理解が追いつかなかった。けれど、一つ感じたのは"西洋人は深い暗い絶望の中で現実主義者としてしか生きられないつらさを背負っているのではないか"という事。この映画の中では、最初から最後まで善悪という二元論がまったく意味を為さない上に登場人物の誰の意にも介さない。だから、ほのかに香るイレギュラーな情愛、あまりにもはかない瞬間の熱情の印象がより強く残る。審美的感覚、とはクライマックスシーンで出たセリフだが、まさに映画という磁場において許される、倫理を超えた絶妙で微細な美の構築、それを映像上のみならず錯綜して綾なす心理にて狙った演出の作品というのは、なかなかお目にかかれるものでない。映画館まで足を運んで良かったと思えた日だった。ところで最大の見所は、70年代のファッションやフィルムの質感を再現することによって、当時の空気を現代に並列させて違和感をなくすることによって逆に異化効果をはかったフレームワーク。昔はよかった。意味はないフレーズだけどやはりつぶやいてしまうね。コニーおばちゃんみたく。『古きよきサーカスはもう無いのよ』… そういえば、実働スパイの周囲の人員が色々出てきたのは単純に楽しかった。書類整理部や盗聴聞取り記録部、単純拷問監視員に女性が多く配置されていたりして。