ゲゲゲの女房('10/監督:鈴木卓爾)

ヒロインの結婚前から何のリアクションもなく妖怪たちが生活の中に現れるわけだけど、原作本や水木発言に馴染みのある客以外を突っぱねているような観は多少あったかもしれない。街の中を電子表示のバスが走るのをそのままにしていたり、遠景にいかにも平成風のマンションが見えていたりという未処理具合も、意図はともかくとしてあまり頂けなかった。以上、マルチメディアで話題の原作を持ちながら単館配給という形をとった事情への考察。…個人的には、夫婦の間やそれを取り巻く人々との伸び縮みする距離感を描いた生活実存系映画としては久しぶりに高密度な空気を味わえたなという印象でわるくない質感を受け取った。水木夫妻へのリアリティある視点は、大人気となったTVドラマ版よりも切迫していてその差異化が鮮やかだし、飄々としているようで人間性を侵す傲慢さへの怒りは常に心底に持ち続けている夫と戸惑いながらも彼を信じつづけようとして、古風さを持ち合わせながらも時に正面から意見をぶつける自我を確立させた妻それぞれのキャスティングは見事としかいいようがない。なお、特に記憶に残るシーンとして妻が帯を敷布団の下から引っ張り出す場面、さりげなくも重要な登場人物としては汲々息絶々の貸本出版社の妻子を挙げておきたいと思う。その意は、邦画の根本は昭和、である。