フロム・ヘル(上・下)

フロム・ヘル 下

フロム・ヘル 下

切り裂きジャックの正体は誰か、事件のもたらした影響と現象は何を示していたかを描いたコミック大作。グラフィック・ノベルと銘打たれている通りに、セリフ部分に負う割合が構成上でも相当高い。それでいて、グラフィカルの分野でしか表現し得なかった幻視と現世との混淆もまた相当な洗練度。大人のための大人による大人な作品ということで、こういったジャンルに関しては日本はまだまだかもと思わされる圧倒的に印象の強い作品だった。上巻の方が殺人シーンが多いが、本当におそろしいのは、下巻に描かれる最後の殺人の細部描写と、その後の顛末。権力が為し得た野蛮を見てしまった後では娼婦たちの殺されぶりすら現世という地獄からの解放に思えてくる。事態収拾の生贄に選ばれた青年が女権運動に理解を示していたという何気ない部分も切ない。