唐にいるあたりは主人公である悟空も自分の運命を見定めきれていなくて、また民衆の恨みつらみも太い描線とともにみっちり描かれているので、読んでいてけっこうエネルギーを吸われる感じがあったし、筋立てもやや錯綜していた印象。河西回廊を辿るようになってからは、
玄奘と対になることに光明があると知って、自分自身をコン
トロールする術を学んだ悟空の精神に余裕が生まれてきたためなのかグッと読みやすくなる。具体的にいうと七仙姑編までが峠かなと。それとテーマもなかなか見えてこなかったりするのだけど、それ自体が一つの仕込み。答えに近いものは、最終巻に近くなるほどに見えてくるしね。なお、ギミックとしては与世同君の袖返しの術が最高に面白かったです。いやあ、混沌の力をストーリーと構成とで見せきったライフワークにふさわしい傑作ですね。読んで良かった。