カルメン・ドッグ

カルメン・ドッグ

カルメン・ドッグ

エムシュウィラー自身はフェミニズムを念頭に置いてるわけじゃないらしいけど、これはなんとも柔らかく自然体な女性原始太陽論小説。家庭の中で主婦は動物に変わっていき、ペットは女に変貌していく謎の現象が頻発する世界。しかし、語り口はあくまでおっとり(しているからこそここぞという時のアフォリズムが際立つ)。約束された大団円へと向かっていく様は作者自身の言葉によると『ピカレスク』、個人的にはオペラでカルメンを演じることを夢見るヒロインの犬娘のイメージからオペレッタのような印象を受けた。中盤の趣味人の中年男にかくまわれるあたりが艶笑的でドキドキするなり。あとは女傑にして温厚な老婦人ローズマリーがやはり鮮烈。テーマ面の核をなすこのキャラクターのモデルはもしかしたら、実験動物の権利保護運動のさきがけとなった実在の(動物を惨く扱った自分の夫を告発したという)研究者夫人なのではないかとも思われる。