運命の日(上・下)

運命の日 上 (ハヤカワ・ノヴェルズ)

運命の日 上 (ハヤカワ・ノヴェルズ)

ルへインといえば映画化、というわけで第一次世界大戦末期に起きたボストン市警ストライキ事件を題材とした、この労働運動/移民系一族/葛藤恋愛といった複数テーマを含む長編小説もすでにサム・ライミ監督という事まで決まってるそうです。終盤での畳み掛けるようなアクション演出が目に浮かぶようだ。…実はその箇所だけあまり好きじゃないんだけど。都合よく人が死にすぎ、劇内懲罰与えすぎというか。まああくまで娯楽作品という面を優先したという見方もあるんだろうけど。ほかは、歴史を知る愉しみ(アメリカの労働者運動ってあまり知られてないイメージ)も、政治的駆け引き要素(13歳のいとこを愛人にしてる市長よりもそれを毛嫌いしている州知事の方が人間として卑劣といった一例ひとつ取っても人物描写のグラデーションが豊か)も、人物造形の魅力(狂言まわしとして幕間に登場するベイブ・ルースの出会う労働運動家たちのスピンオフが読みたい)も相当なものが。面白いですよ。欲望の運動体であるところのスピードを愛する二十世紀資本主義の権化のようなベイブと、恵まれぬ者に共感して止まず利益追求の道から自ら降りる架空の人物との対比構図を示したエピローグもこよなくキまってる。