谷中、花と墓地

谷中、花と墓地

谷中、花と墓地

著者は駐留軍スタッフとして来日して以来東大等で日本文学を修め、谷崎潤一郎川端康成三島由紀夫の作品他を英語に翻訳した仕事で著名になったアメリカ生まれの男性。昨年逝去するまで、東京の下町に住んでいたとのこと。率直で歯切れのいい物言いや唐突に挟まるユーモア(『(…)当然誤解が多いものと推察された川端康成先生からは、干渉は一切なかった。紫式部先生からも、道綱の母上さまからも同様であった。』P122)こそかの国の人らしい印象なものの、ゆったりとした文章テンポなどは昭和文人が著した随筆と似た味わい。みすず書房の特色である書籍本来の手触りのある装丁とともに、読んでいて気持ちの落ち着きが与えられる感じがした。当地に住んでいる人でしか教えられない下町散歩道のルートもいくつか書かれており1986年の日付が記されている以下の文章、『特に好きなコースとして現在住んでいるアパートから無縁坂を下り、池の端から早稲田行きのバスに乗る。バスの終点から東京でただ一つだけ残っている都電(荒川線)に乗り込み、面影橋雑司ヶ谷、庚申塚そして飛鳥山、王子を経て三輪橋まで行き、そこからは足でたどる散策のコースを天気や体調によって決めることにしている。(…) 』(P51)はいつかもしも東京でゆっくり日程を取ることができれば、辿ってみたいとすら思う。