ゲゲゲの女房

ゲゲゲの女房

ゲゲゲの女房

水木しげるの10歳年下の妻が著者のノンフィクション・エッセイ。自身の生い立ちからまずはさらっと撫で、いささか詐欺気味な釣り書きを受けての結婚後、長女が生まれた頃に極めた困窮生活(貸本漫画が廃れてきたあたり)描写や少年マガジンでの連載が成功して多忙を極めた折の夫婦のすれ違いという隠れた危機などのいくつもの山場を混ぜ込みつつ、穏やかな老後の現在へと到る。構成の助けにプロライターがクレジットされているだけあって、またご本人の上品な知性(持ち上げるというわけでもなく自然にこう評するしかないんだな、これが。こんな品の良い女性を昔の地方は輩出していたんだなあとしみじみ)が何より表に滲み出ていてかなり引き込まれて読めた。中でも印象的だったのは、暑い夏の夜に汗を原稿に垂らさないように気を使いつつ一心不乱に漫画を描く水木しげるの姿に、あまりの真剣さに心打たれる著者という一節。ここと、売れ始めてから時折メディアに露出する漫画家として徐々に自己演出まで手掛けていく水木の抜け目なさとの多層性は身内ならではの描写だったような気がする。