悪夢探偵('06/監督:塚本晋也)

悪夢探偵」というより「絶望探偵」(よく首を吊るみたいだし)なくらーいくよくよ男を松田龍平が、キャリアから現場捜査に転身した女刑事を歌手でもあるhitomi、その補佐役の人の好いやたら美男子(髪型も相俟って柔和なダビデ像という風情だ)な平刑事を安藤雅信というメインキャストがなかなかいいのです。キャラクターとしては安藤演じる平刑事に一番リアリティを感じたなあ。絶望をうまく誤魔化せる人ほど自殺衝動は強いのかもしれない。そう、この映画のメインモチーフは自殺万延社会。主人公は他人の夢に入る特技を持つことで常人にはなしえない形でのアプローチを生業にしているものの、生きがいも自尊心もまったく無いに等しいし、女刑事もいまひとつ生きている実感が自分に乏しいという観念を引きずっている。社会的には交わることのない立場の両者の出会いと一筋縄にはうまくいかない共闘を軸に物語はすすむ。そこで語られるのは世界は生きるに値するか、ではない。ただ、他者と心を交わすことに意味はあるかないかだ。その点に塚本監督らしいシニシズムを感じるものの、しかし氏にしてはかなりメジャーっぽい演出でテーマ面でも前向きさがある仕上がりになっていると思う。フジファブリックによる主題歌の完成度の高さもあいまって、流血描写が少なくない映画ながら後味は決して悪くない。