エソルド座の怪人

エソルド座の怪人 アンソロジー/世界篇 (異色作家短篇集)

エソルド座の怪人 アンソロジー/世界篇 (異色作家短篇集)

早川書房の異色作家短編集シリーズ、平成新版のために編まれた「世界編」。中東やアジア、南米にヨーロッパといった広い地域からよりすぐった短編が読めるのは興味がそそられたけど、粒が揃った娯楽作揃いかというとやや微妙。表題作はアンソロジーに入れるには実験要素が強すぎるように思うし、凡庸に感じられる作品もちらほら。…つまり娯楽小説においては英米が二大牙城なのだなとあらためて認識させられたというか。なんだろ、英語の明晰さがそのジャンルに向いてるとかか? さて、とはいえ個々の短編の印象はそれなりに強いものもあり、個人的に好きなのは『トリニティ・カレッジに逃げた猫』(ロバートソン・デイヴィス)フランケンシュタインの猫。台詞まわしが可笑しい。編集後記で述べられている作者略記とあわせて読むと味わい倍増の『オレンジ・ブランデーをつくる男たち』もユーモアが。レイモン・クノー『トロイの馬』は「地下鉄のザジ」の映画版に出てた(原作にもいたかは不明。文庫本はどこかに持ってるはずだけど)着ぐるみの白熊がもししゃべればこんな感じだろうなとこれもとぼけたユーモアぶりがいいです。一風変わったささやかなピカレスク小説『金歯』(ジャン・レイ)は広義のミステリとして一番出来がいい。ふつうにとても面白かった。