鬱ごはん

既刊1巻。その時々での食べたいものを入手する事にはこだわるけど、シチュエーションあるいは体裁はどうでもいい、むしろ一人の部屋でじーっと味わいたいというグルメ漫画というべきかアンチ・グルメとするか、どちらか正確かわからなくなるのが面白い作品。作者自身の投影が大いにあると思われる主人公は、健啖家でもないし美食家ともいえない-B級フードが主食といっても過言でない-が、やけに衛生面にはこだわりを見せるそのイビツさに実在感があって妙に親しみを覚える。エッセイ漫画のスタイルながら、オチがいつもちゃんと付いているのも満足度が高い。花火大会の穴場を見つけるエピソードなんか最高である。これは、折々に触れて再読したい作品。夜行バスの暗い車内でこっそりタブレットで読むのなんてしっくりとハマると思う。

愛の渇き

愛の渇き

愛の渇き

これまでに読んだカヴァン小説の中ではもっともキャリアの早い時期に位置する長編で、亀裂がはじめから入った母と娘の関係が他人を巻き込んで綾なす複雑な模様というストーリーは、通俗小説のそれといって過言でない。物語の中盤に置かれた、寒村と都会を結ぶ列車を挟んでの若い男女の言葉のやりとりなどは、読んでいてその成り行きにハラハラさせられるほど。しかしカヴァンの筆致の特徴は折々に顔をのぞかせ、寒い部屋で陽光が斜めに差し込んで室内をきらめかせる瞬間の無感情だからこそ美しい描写、運命の因果応報を示しながら更なる心裡の襞を折り重ねることで単純な解釈をつきはなす読者との距離感などは、代表作である幻想小説『氷』と相通ずるものがある。