ハンナ・アーレント('13/ドイツ・ルクセンブルク・フランス 監督:マルガレーテ・フォン・トロッタ)

冒頭、バスから降りてアルゼンチンの荒野沿いの未舗装道路を真っ暗な中、トランクを下げて一人きりで歩くアイヒマン。すぐに追い抜いてきたトラックから降りたモサド構成員に拉致されることとなるのだが、上映から時間を置いた今、不思議とあのシルエットは批判の最中にあったアーレントを描写した様子と印象が重なる気がする。ただ一人で立つ事が時に求められる瞬間は誰しもある。その時に、意見を異にする相手を前に言葉の城を土台から構築していく事をいとわない覚悟を持つかどうか。今の日本でこの映画が評判と人出を呼んだ事実に、納得と希望を感じる。『相手を理解することと赦すことは同じではありません』。