キャロル('15 アメリカ・イギリス/監督:トッド・ヘインズ)

「映画」をつくるとは美について言葉以外で語ることである。
あらゆる感情を曇りガラスや雨粒を通しておぼろげに伝えるこの映画は、すべてを台詞にしないことで、すべてをこちらに預けてくる。
劇中の人物の弁を借りれば『私たちは醜くないはずよ』と。美しさについてただ黙って受け止めることができるのだと。
誰かを特別に大切だと思うことが愛ならば、そこに社会多数の物の見方が入る余地はない。本来はない。映画はその本来を語ることができる。
愛についてまっすぐ向き合うさまを歳若い想い人に見せたキャロルの生き方は、後の方では逆の構図でテレーズから投げかけられる。
この愛という名の美を受け止める覚悟はあるか。
ここまで観客と対峙した映画を、他に私は知らないかもしれない。