ユービック

超能力者と、彼らの能力を中和することができる、すなわちアンチ超能力者との間で企業間抗争が行われている世界観も魅力的だが、不可解なエントロピー増大の加速からの万能の護符となるスプレー剤『ユービック』というガジェットもマクガフィン概念ど真ん中で、たちまち読んでいて夢中になってしまう。こうやって作品構造を単純化してみると、陳腐な要素で形作られていることに虚を突かれるが、作品はスピーディかつ求心性を持ったまま展開される。老いや病を象徴する現象が進行していく様子など、強烈なイメージを放ってもおり、ディックの代表作のひとつに上げられる事が多いのも納得。